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静岡地方裁判所 昭和39年(行ウ)13号 判決 1972年9月27日

浜松市千才町七六番地

原告

浜松勤労者音楽協議会

右代表者委員長

福田博年

右訴訟代理人弁護士

大蔵敏彦

小林達美

浜松市元城町三七番地の一

被告

浜松税務署長

中川庄次

右指定代理人

佐藤弘二

長沢甲子夫

伊藤新吉

岩田幸吉

郡保

沢村雅利

伊藤孫

右当事者間の入場税等決定処分取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、当事者双方の求める裁判

(一)  原告

「被告が原告に対してなした別紙目録第一ないし第六記載の各課税処分をいずれも取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決。

(二)  被告

主文同旨の判決。

(三)  なお原告の請求は別表第四の更正決定に関する各原課税処分の取消と右更正決定により右原処分より増加した分の取消とを求めるようにみえるが、その実質は原処分の取消を求めるのではなく、原処分を吸収した更正決定全体の取消を求めるものと解するのが相当である。したがつて、被告は本案前の主張として原告が右更正決定にかかる原処分の取消を求めるのは不適法であつて却下されるべきであると主張するが、原告の請求を前記のとおりに解する以上、被告の右主張は存在意義を失い、なされなかつたものとして取扱うのが相当である。

二、原告の主張

(一)  被告は原告に対し別紙目録第一ないし第六記載のとおりの各入場税決定処分ならびに無申告加算税の賦課決定処分をした。

(二)  被告の原告に対する前記各処分は、次の理由により違法であり、取消されるべきである。

1. 原告は浜松市およびその周辺の勤労者有志を中心とする音楽愛好家のサークル(会員三名以上で組織)をもつて構成する団体であつて、その目的は音楽鑑賞を通じて会員各自の成長と社会の進歩に役立つ音楽文化をつくり出すことにある。原告には規約があり、これによつて代表者が定められ、会員による自主的な企画運営のもとに定例音楽会(例会)の開催、機関誌の発行、その他のレクリエーシヨン活動などを行い、団体として活動しているが、法人格を有しないものであり、いわゆる人格なき社団に該当する。

このような人格なき社団は、実体法上権利義務能力を有せず、財産を所有することもできないから、納税義務を履行する能力もないもので、これに納税義務を課してもその義務の履行は原始的に不能である。

そればかりでなく、仮りに人格なき社団に納税義務を課することができるとしても、入場税法には人格なき社団を納税義務者とする明文の規定はないから、同法にいう「経営者」または「主催者」とは、自然人または法人に限られ、原告の如き人格なき社団をこれに当るとして納税義務を課することは許されない(租税法律主義の原則)。このことは所得税法、法人税法には明文をもつて人格なき社団に納税義務を認めているのと対比すれば明らかであるし、国税通則法の成立過程および入場税法改正の経偉からも明らかである。すなわち国税通則法が昭和三七年国会に提案されたときは権利能力なき社団等は「国税に関する法律の規定については法人とみなす」という原案であつたのに、国会の審議の過程で修正されて国税通則法の適用についてのみ人格なき社団も法人とみなされることとなり、納税義務の存在そのものは各実体租税法の規定によるところとなつた。一方同年改正の入場税法には権利能力のない社団に関する両罰規定が設けられていたが、国税通則法の右修正に伴い右両罰規定は削除された。なお被告は入場税法第八条の免除規定の別表上欄に社会教育法第一〇条の社会教育団体が含まれるという点をとらえて、人格なき社団も納税義務があるという根拠として主張する。しかしその論理はまちがいであり、入場税法の適用については別表にいう「社会教育団体」等は、そのうち権利能力を有する団体だけに限定されるものと解すべきである。

2. 本件入場税等決定処分の対象とされた原告の例会は、入場税法第二条にいう「催物」ではなく、原告はその「主催者」ではない。

入場税法第二条第一項は、「催物」とは音楽、演劇等を多数人に見せ、または聴かせるものであると定義する。つまり音楽等を見せたり聴かせたりする者の存在と、これを見たり聴いたりする者の存在、すなわち主催者と入場者との存在を前提とする。

しかし、原告の組織、活動の実態はそのようなものではない。以下にそれを説明する。

原告は上記の目的をもつた自主的民主的な団体であるが、その組織の基本はサークルにある。サークルは三名以上の会員をもつて構成され、新らたに会員となろうとする者は原則としていずれかのサークルに所属しなければならない。会員になるということはサークルに加入することであり、退会ということはサークルから脱退することにほかならない。このことが原告の団体としての著しい特色である。サークルでは一人一人の会員が充分に意見を述べることが可能であり、各サークルで話合われた意見がサークル毎に集約され、これが委員会、ブロツク会議に反映され、原告の具体的な運営方法に展開してゆくという過程をとる。サークルはそれぞれ代表者を選ぶ。代表者は総会に出席し、サークル員の意思を総会に反映させ、総会で委員を選出する。また代表者は会員のもちよつた会費を事務局に届け、入会退会の手続をとり、機関誌、その他のニユースの配付などを行う。サークルはその会合において音楽要求、例会の反省などを討議し、またレコードコンサート、ハイキングなどの活動もする。そこで会員は人間的な理解を深め、連帯感を強化し、音楽を鑑賞し創造する能力を啓発される。

原告にはサークルのほか総会、委員会、総務委員会、ブロツク会議がある。総会は最高の決議機関で、委員会は総会に次ぐ決議機関であると共に、総会で決つた運動方針を実践する。総務委員会は委員会の補助機関である。サークルがいくつか集つてブロツクをつくり、そこにブロツク会議がある。

例会は原告の活動の中で重要なものである。例会は一般興行と比較すると著しい特色がある。第一に一般興行では観客は自分でその内容を決定できないで、ただ与えられたものを観賞するほかないが、例会は会員のもつ音楽要求を基本にできる限りこれを反映させることが要求される。例会の企画は次のようにして決まる。まず会員の要求がサークルに集約され、さらにブロツク毎にまとめられ、それが全体としてまとめられて総会で例会企画方針が決定される。その方針にしたがつて委員会で具体的な企画案が作成され、更にこれがサークルとブロツクで討議され、最終的にサークル代表者会議で決定される。特色の第二は、例会の運営がすべて会員自身によつて行われ、しかもこの運営にたずさわる会員もまた会費を分担していることで、一般興行の主催者が従業員を使用して運営しているのと比べて大きな特色である。さらに会員自身が例会に出演することもある。それも無報酬であり、各自平等に会費を分担している。第三の特色として例会では事前に会員が内容を理解し研究する学習会を開いたり事後に合評会を開くなど積極的に例会内容を充実させている。会員はあらかじめ例会参加証の交付をうけ、会場で座席指定票と引かえ、座席がきまる。座席は会員を平等に扱うようにきめられる。

このように、原告は会員個人の集団ではあるが個々の会員と対立し、独立した存在ではない。例会は会員だけが参加し、会員以外のものは参加できない。いわば原告の対内的活動である。例会は会員が全体でこれを主催し、会員全体がこれを鑑賞している。聴く者と聴かせる者との対立関係は全くない。

3. 本件入場税決定処分等において、入場料金に該当するとされた会費は、入場税法にいう入場料金の性質を持つていない。

会員の拠出する会費の性格は、全体としての労音運動を維持発展させるために、これに必要な費用を各会員が平等に分担しているものである。

会員は、誰でも平等に同一金額の会費を納めている。会費を分担しないものはいない。その会費は利益の追及とはかかわりなく、収支相つぐなうことで足りる。例会は原告の運動の重要な一部ではあるが、その全部ではなく、原告はその他レコード・コンサート、研究会、座談会、合唱、ハイキング等の例会外活動や機関誌の発行などをしている。これらの活動費用や事務局の費用、事務所の賃借料等はすべて会費によつてまかなわれている。したがつて会費が例会ごとの入場の対価であるということはできず、これを入場料金に当るとする被告の主張は誤ついてる。

4. 入場税を原告に課することは憲法第二五条に違反する。

憲法第二五条は「健康で文化的な生活を営む権利」を国民の基本的人権として保障しているが、国は国民の文化的な権利の実現に対し、ほとんど何らの施策もなしていない。ことに日本における文化の中央偏重傾向によつて、地方における国民の文化的生活を営む権利の保障はきわめて乏しいものである。

原告はこのような状況の中で、入場税を負担している一般興行の入場料金を支払うだけの資力の乏しい、働く大衆の間から会員が平等に会費を負担し、興行者の手を排除して、自分たちの手で自分たちの芸術を鑑賞し、つくり出そうとして、結成された団体の中の一つである。

これらの団体が結成されてはじめて地方都市の働く大衆にも良い音楽や演劇を味わう機会を持つことが可能になつたのである。

原告らに入場税を課することは、国がその義務である文化施策を全く怠りながら、逆に大衆自身の力でその文化的要求をみたそうとしている原告らの活動をいちじるしく困難にさせることを意味する。このような点からみて、原告に対する入場税課税は憲法第二五条に違反するものである。

(三)  (被告の主張に対し)

別表記載の日時場所において、その記載の如き音楽会等が原告の例会として開催されたこと、そのうち番号18ないし26の各例会に際しては、各入場者から同表入場料金欄記載の金額を会費として徴収したことは認めるが、同表記載の入場人員についてはすべて争う。

三、被告の主張

(一)  原告の主張(一)の事実は認める。同(二)のうち原告が規約を定め代表者を有している人格なき社団であること、原告が定期的に音楽会を開き、機関誌の発行をしていることは認める。原告の法律上の主張はすべて争う。

(二)  原告はその自認するとおり人格なき社団であつて、後記の如くその事業として例会と称する催物を主催し、その催物に原告の会員とされている多数人を入場させ、それら入場者から会費という名目で入場の対価を領収しているものである。

本件各課税処分は、原告が入場税法第一条第一号該当の場所である浜松市民会館において、別表記載の年月日にそれぞれ主催した催物の入場料金についてなされたものであつて、それら催物の種類および内容、入場人員、一人一回の入場料金の総額、課税標準額、入場税額、無申告加算税額(原告が右各催物について入場税額等の申告をしないため)は、すべて同表記載のとおりである。

同表記載の番号1ないし6の各入場税決定処分が昭和三八年四月二二日付で、番号7ないし9の各入場税決定処分および無申告加算税賦課決定処分が同年一二月一八日付で、番号10ないし14の各入場税決定処分および無申告加算税賦課決定処分が昭和三九年四月二〇日付で、番号15ないし17の各入場税更正決定処分および無申告加算税賦課決定処分が同年同月同日付で、番号18ないし20の各入場税決定処分および無申告加算税賦課決定処分が同年五月二一日付で、番号21ないし26の各入場税決定処分および無申告加算税賦課決定処分がそれぞれ同年六月二〇日付、同年七月二二日付、同年八月二八日付、同年九月二五日付、同年一〇月二七日付、同年一一月二六日付で順次なされたものである。

もつとも右のうち番号1ないし17の分については、当時原告の実態が被告に明らかでなく、各例会の一人一回の入場料金がその都度会費として徴収されている事情が知られていなかつたので、右入場料金額を算出する合理的方法として、当該催物に要した経費、たとえば会場借上料、出演料、入場券、ポスター等の印刷費等の合計額を、当該会場に通常入場させることができる人員の数で除して得た金額をその催物について一人一回の入場料金(税込)としたものである(入場税法基本通達第一三条による)。右経費の内容は別表記載のとおりである。

その後の調査の結果、原告が個々の催物ごとにそれについての一人一回の入場料金を会費として徴収していることが明らかになつたので、番号18の昭和三九年一月開催分以降は右の推計方法によることを止め、被告が確認した入場人員と当該例会の一人当り会費金額とにもとづいて、課税標準額および税額を算出してきたものである。

(三)  原告の主張(二)の1ないし4について

1. 人格なき社団は、民法上これに権利能力を認める規定がないため、法人格を有しないけれども、社会的な実体としては、機関たる代表者の行為によつて対外的に団体として行動し、第三者と取引関係を結び、社団の名において構成員全体のために権利を取得し、義務を負担するものであつて、社会生活上の一単位として実在し、社団法人に準じた実体法上の地位を有するものとして活動している。そして法律がこのような社会的存在に対して権利義務能力を認めるかどうかは、全く立法政策の問題であり、私法の分野において権利義務能力を認められていない。このような団体に対して、公法の分野においてかかる能力を認めて法的規制の対象としても、一向にさしつかえがない。したがつてある租税法規上人格なき社団が納税義務を負うものかどうかは、もつばらその租税法規の解釈によつて定まるべきことであつて、人格なき社団が本来納税義務者たり得ないものであるという原告の主張は理由がない。なお人格なき社団が納税義務者となつた場合には、社会的現象として人格なき社団そのものに帰属するとみられる(法律的には構成員全体の総有に属する)財産によつて納税義務を履行することを要し、又それで足りるのであるから、原告主張のように人格なき社団には納税義務を履行する能力が原始的にないということはない。

次に入場税法第三条が納税義務者として定めている「経営者」および「主催者」の中に人格なき社団が含まれるかどうかは、一見明白であるとはいえないが、そもそも入場税は、興行場へ入場料金を支払つて入場する者には、そういう娯楽的消費支出をするだけの負担能力があるということに目をつけて、これに税負担を課そうとするものであつて、実質的負担者は入場者であり、「経営者」又は「主催者」が納税義務者とされているのは、徴税上の便宜にもとづくのである。したがつて納税義務者のうち「主催者」について言えば、「主催者」たり得るものは法人格の有無にかかわらず社会生活上の統一的活動体として、その名において興行場の借受け、催物のための出演契約、その広告宣伝等関係諸経費の支払等について、契約当事者として活動し、現実に催物を行い、入場料金を徴収するなど、いわゆる自己の計算において催物を主催し得るものであれば足りると解すべきである。

このことは入場税法第八条に定める免税興行に関し、同法別表主催者欄の一に「児童、生徒、学生又は卒業生の団体」が、同四に「社会教育法第十条の社会教育関係団体」が、それぞれ免税される対象として掲げられていることをみても明らかである。すなわち前者は通常法人格を有していないものであり、後者については右社会教育法第十条に「法人であると否とを問わない」旨の規定があつて、これらの団体が免税の対象とされていること、すなわち本来的には納税義務を負うものとされていることは、結局法人格の有無が納税義務の存否に何ら影響を及ぼさないことを示しているのである。

なお税法のうち、法人税法、所得税法、相続税法には、それぞれ「人格なき社団」は法人又は個人とみなして当該法律の規定を適用する旨の規定を設けているのに対し、入場税法はそういう明文の規定を欠いている。しかしこれは各税法の規定の仕方の特殊性に由来するのである。すなわち法人税法は納税義務者を「法人」に、所得税法はこれを「個人および法人」に、相続税法はこれを「個人」に、それぞれ限定しているので、人格なき社団を右各税法の規制の対象にするためには前記のようなみなし規定を必要としたのである。これに反し入場税法はその納税義務者を個人又は法人に限定する規定を設けていないので人格なき社団についても格別みなし規定をおく必要がないのである。

また原告は昭和三七年の国税通則法および入場税法の制定改正経過を根拠に原告に納税義務がないと主張する。しかし、それらの政府原案は税制調査会の答申にもとづくものであるが、その答申においては、入場税などの間接税については人格なき社団を納税義務者に含める明文の規定はないが解釈上含まれることは当然であるとの前提に立ち、ただ間接税法上の規定をめぐつて人格のない社団に対する罰則の適用について問題が生じているので、その納税義務を立法上明らかにすると共に人格なき社団およびその代表者を処罰しうることを規定しようとしたものである。したがつて右政府原案が修正されても、人格なき社団の納税義務には影響がない。ただ罰則の適用がないことになつたに過ぎない。

2. 原告は原告の例会は会員が全体で主催し、かつ会員全体がこれを鑑賞しているもので、原告は主催者ではなく、また聴く者と聴かせる者とは一体であつて、その間に対立関係がないから入場税法第二条第一項にいう「催物」ではないと主張する。

しかし例会の主催者が原告であることは、次のとおり明らかである。

原告はその規約によれば「良い音楽を安く鑑賞する一切の活動を行うこと」を目的として昭和三六年七月に結成された人的結合体であつて、団体としての組織を備え、その運営については多数決の原理が行われ、設立以来構成員の増減変更にかかわらず同一の団体として存続し、内部的には規約によつて代表の方法、組織および運営の方法、財産の管理等が定められ、対外的には社会生活上の一単位として実在し、団体として活動しているものであつて、原告自ら主張するとおり、いわゆる人格なき社団に該当するものである。

原告は原則として三名以上の会員を有するサークルを単位として構成されているが、入会希望者が三名に満たないときは個人会員として入会を認められている。サークルは原告が会員と連絡する(会費の徴収、催物の種目の伝達、例会券と称する入場券の交付等)繁雑さを軽減すること、会員を固定させ、増加させるための拠点とすること等の便宜に出たものということができる。会員となるについてはなんの資格も要件とされていない。誰でも所定の入会金と会費を納めれば会員になれる。会員であれば例会を鑑賞することができる。また退会も自由である。

原告の設立の時の規約によると、原告の機関としては、総会、委員会、運営委員会がある。役員としては委員長、副委員長、委員、事務局長、会計監査等がおかれ、いずれも総会で選出される。日常の事務を処理するために、委員会の総括の下に事務局が設けられ、ここに事務局長および原告に雇われている事務局員がいる。総会は毎年招集される総会と必要に応じて開かれる臨時総会とに分かれ、総会の意思は出席代議員の過半数によつて決定される。総会では原告の業務運営に関する基本方針の決定等がなされ、委員会はその運営方針を決定し、運営委員会はこれを実施することとされている。

ところで原告の事業のうち、もつとも重要なものはその設立の目的からも明らかなように、毎月定期的に音楽会等((いわゆる例会)を催し、会員にこれらを鑑賞する機会を提供することである。例会における上演種目は、総会が決定した基本方針にもとづいて委員会等が具体的に選定する。その決定に当つては会員の希望や趣向を反映するようにしているが、それは企画の参考にされるに過ぎず、最終的な決定は原告によつてなされる。また例会において聴衆の一部が場内整理などを分担するということがあつても、それは安く例会を催すため経費を節約しているにすぎない。

例会が催されるたびに、原告は出演者と交渉して出演契約を結び、その出演料等を支払い、例会場を借り受けるための契約を結び、賃料を支払いその他ポスターや例会券の印刷等、必要な一切の準備行為をする。これら対外的な行為はほとんどの場合原告の代表者である委員長が原告の名において行う。時には事務局長が委員長の委任にもとづいてすることもある。

原告は、会員が例会に参加するために、あらかじめ会費を納入しそれと引換えに例会券の交付をうけ、当日それを持参してくること、を要求している。サークル代表者は、例会に参加しようとする会員について、会費をそえて参加の申込みをし、例会券をもらつてきて、会員に渡す。このように例会券は前売券に該当する。会員は当日例会券を呈示して座席券と引換え入場する。しかし会員がある例会に参加を希望しないときは、会費を納めないことによつて自由に脱会することができる。そのため原告の会員数が例会の人気などによつて流動する。また一ケ月に二回以上例会が開かれる場合にそれぞれの例会に参加しようとするものは各例会に対応する会費を納めなければならない。

原告は例会の費用その他の費用を、入会金と会費でまかなう。例会は入場者が多くて収益が残ることも、入場者が少くて欠損になることもあろうが、収益がでても会員に分配するわけではなく、欠損が生じても追徴するわけではない。

要するに原告と会員との法律関係は、例会場に入場して上演される音楽を鑑賞することとその代償として会費という名の入場料金を払うことに、集約される。したがつて例会は会員によつて自主的に運営されるというようなものではない。

このようにして催される音楽会等を主催する主体はまぎれもなく原告そのものであり、原告を入場税法上の主催者と見るべきことは当然と言わなければならない。

原告はまた原告の例会は会員が全体で企画運営し、会員だけがこれを鑑賞するものであるから、聴く者と聴かせる者との対立関係がなく、入場税法にいう「催物」に該当しないという。

しかし入場税法第二条第一項は、「この法律において「催物」とは、前条各号に掲げる場所(以下興行場等という)において、映画、演劇、演芸、音楽、スポーツ、見せ物、競場、競輪その他政令で定めるこれらに類するもので、多数人に見せ、又は聞かせるものをいう」と定めているところ、ここにいう多数人とは特定、不特定を問わないのであつて、団体等が構成員の総意にもとづいてその希望する音楽家等を招き、その会員だけのために音楽会を催すような場合でも同法にいう「催物」でないということにはならず、会員が協同してその企画立案に当り、会場の管理運営等の仕事を分担するとしても右の結論を左右し得ない。

原告の例会は、前述のように個々の会員とは別個独立の社会的存在である原告が、原告の計算と責任において、前記法条にいう興行場等に該当する場所で会員である多数人に音楽等を聴かせるものであり、原告主張のように聴く者と聴かせる者との対立関係が存在しないということはできず、「催物」に該当することは明らかである。

3. 原告は例会の会費は入場の対価ではなく、入場料金の性質を持つていないという。

しかし原告は、前記のとおり原告の会員が例会に参加するための要件として、予め会費を原告に納入し、これと引替えに例会券の交付を受けることを要求している。当該例会に入場するときには、この例会券等を呈示しなければならない。会費を納めれば、それを誰一の契機として、それだけで当月の例会に入場できるのである。したがつて会費が入場料金の実質を持つことは明らかである。

また原告は利益の追及を目的としないから会費は入場料金ではないというが、入場税は所得税のような収益課税ではなく娯楽的消費支出について担税力があるとして課税するのであるから、右主張は理由がない。

原告は、会費は例会開催費用にあてられるだけではなく、例会外活動費、機関誌発行費、事務局費等の支出にもあてられているから、会費のすべてについて入場の対価性を認めることはできないともいう。

しかし原告の主たる事業は例会の開催であり、これに要する費用をまかなうために会費を徴収し、会費を支払つた者に例会を鑑賞させているのであるから、会費はまさに入場の対価たる入場料金である。原告主張の例会開催費以外の諸費用というのもいずれも例会を開催するのに通常必要な費用であり、仮りに原告が会費収入から例会のために支出した経費を控除した剰余金で例会以外に何らかの活動をしたとしても、会費金額が入場料金であることに変りはない。実際に原告が経費を必要とする例会外活動をする際には、これに参加する会員からその都度参加費を会費とは別に徴収している。参加費を徴収しない活動は経済的価値がないものである。かつこれらの活動に参加する会員は総会員数のうちわずかな人数でしかないから、会費は全額入場料金とみるべきである。

4. 原告は、原告に入場税を課することは憲法第二五条に違反すると主張する。

しかし原告に対して本件課税処分がされたからと言つて、その当然の結果として原告の会員が原告の主催する音楽等を鑑賞する機会をうばわれ、ひいて健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を害されるに至るとは言えないから、右主張は理由がない。

四、証拠

(一)  原告

甲第一、二号証の各一、二、第三ないし一一号証、第一二ないし二二号証の各一、二、第二三号証、第二四、二五号証の各一、二、第二六、二七号証を提出。

証人中島一郎、柴田しのぶの各証言、原告代表者福田博年の尋問の結果を援用。

乙第一号証、第二号証の一、二、第三号証、第四号証の一ないし三、第五号証、第七号証の一、二、第八号証、第九号証の一、二、第一一、一二号証の各一、二、第一三号証の一ないし三、第一四、一七号証の各一、二、第一八ないし二一号証、第二二号証の一、二、第二三号証の一ないし三、第九三号証の一、二、第九四ないし九六号証、第九七、九八号証の各一、二、第九九、一〇〇号証、第一〇一ないし一一二号証の各一、二、第一一三ないし一二三号証、第一二四ないし一二六号証の各一、二、第一二七号証、第一二八、一二九号証の各一、二、第一三〇号証の成立を認める。その余の乙号各証の成立は知らない。

(二)  被告

乙第一号証、第二号証の一、二、第三号証、第四号証の一ないし三、第五、六号証、第七号証の一、二、第八号証、第九号証の一、二、第一〇号証、第一一、一二号証の各一、二、第一三号証の一ないし三、第一四ないし一七号証の各一、二、第一八ないし二一号証、第二二号証の一、二、第二三号証の一ないし三、第二四号証の一ないし四、第二五号証の一ないし三、第二六号証の一ないし四、第二七ないし三〇号証の各一、二、第三一号証の一の一、二、同号証の二、三、第三二、三三号証の各一、二、第三四、三五号証の各一ないし三、第三六号証の一、二、第三七号証、第三八号証の各一ないし四、第四〇号証の一、二、第四一号証の一ないし五、第四二号証の一ないし三、第四三号証の一ないし四、第四四号証の一ないし三、第四五号証の一ないし四、第四六号証の一ないし三、第四七ないし九二号証、第九三号証の一、二、第九四ないし九六号証、第九七、九八号証の各一、二、第九九、一〇〇号証、第一〇一ないし一一二号証の各一、二、第一一三ないし一二三号証、第一二四ないし一二六号証の各一、二、第一二七号証、第一二八、一二九号証の各一、二、第一三〇号証を提出。

証人小野田米司、藤田重雄の各証言を援用。

甲第一、二号証の各一、二、第三ないし一〇号証、第一二ないし一九号証の各一、二、第二一、二二号証の各一、二、第二四、二五号証の各一、二、第二六、二七号証の成立を認める。その余の甲号各証の成立は知らない。

理由

一、別表記載の日時場所において、その記載の如き内容の音楽会等が原告の例会として開催されたこと、被告が原告に対し、原告が右音楽会等の主催者であるとして、別紙目録第一ないし第六記載の各課税処分をしたことは、当事者間に争いがない。

そこでこれら課税処分の当否について以下に検討する。

二、成立に争いのない甲第一号証の一、二、第八号証、乙第一号証、第三号証、第四号証の一、二、第九号証の一、二、原告代表者福田博年尋問の結果ならびに弁論の全趣旨を総合すると、原告がいわゆる人格なき社団に該当する実質を有する団体であることが認められ、これに反する証拠はない。ところで原告はまず人格なき社団は本来租税債務の主体たり得ないと主張する。しかし人格なき社団は、民法上の権利能力こそ認められていないが、社会生活上の現象としては個々の構成員から独立して存在し、その規約の定めるところに従つて代表者を選び、団体意思を決定し、社団の名において対外的に活動し、法律上の財産取得能力はないけれども構成員の総有という形で実質上社団に帰属する財産を持つことができるのであつて、原告についても同様である。このような存在に権利義務能力を認めることが本来的に不可能であるといういわれはなく、むしろこれにどのような範囲で権利を認め、義務を負わせるかは、専ら立法政策の問題である。したがつて租税法の分野において、人格なき社団に納税義務を負わせるかどうかは、各租税法規がそれぞれの立場から定められたものである。因みに私法上の取引関係においてもこのような社団はその名において訴え、又は訴えられることができ、その裁判の結果認められた限度で実質的に権利を取得し、義務を負担する。その義務の履行について責任財産となるのは前記の如く法律上は構成員の総有という形で社団に帰属するところの財産であつて、個々の構成員の財産は何ら責めを負わされない。したがつて租税債務を人格なき社団に負わせても、その履行が不可能であるということはない。このようにみてくると原告の前記主張は理由がない。

次に原告は入場税法には人格なき社団を納税義務者とする旨の明文の規定がないから、同法にいう納税義務者たる「経営者」又は「主催者」とは、自然人又は法人に限られると解しなければならないと主張する。この点について原告は租税法律主義をいう。たしかにそれは大切な原則である。しかし一方で租税は公平でなければならず複雑な事象に対処し事態の変遷に応じ的確に課税の目的を達しなければならない。したがつて租税法律主義も文字どおりには貫くことができず、他の要請と調整されなければならない。そこに租税法の解釈の余地も生ずる。

たしかに入場税法には人格なき社団が納税義務者に含まれることを直接明記した規定はない。しかし本来入場税なるものは、入場税法第一条にいう「興行場等」へ入場の対価を支払つて入場しようとする者に対し、そのような娯楽的消費支出をするだけの能力に見合う担税力があるものとみて、税負担を課しているものであり、したがつて入場税の実質的負担者は入場者なのであつて、興行場等の経営者又は催物の主催者が納税義務者とされているのは単に徴税上の便宜のために他ならない。そうだとすれば経営者又は主催者の人格の有無によつて、入場者が税負担を課されたりされなかつたりするということは、税法の合理的なあり方とは言えない。むしろ経営者又は主催者という用語には自然人又は法人のみがこれに当り、人格なき社団を含まないと解しなければならないような限定的な意味は何もないことから言つても、入場税法の納税義務者には人格なき社団も含まれると解するのが相当である。原告は所得税法などに人格なき社団を個人などとみなして課税する規定があることを指摘するが、同法などにそのような規定が必要な理由は被告の主張のとおりであつて入場税の場合とは異なる。被告が指摘する如く入場税法別表の免税の対象となることができる催物の主催者として「児童、生徒、学生または卒業生の団体」、「学校の後援団体」、「社会教育法第一〇条の社会教育団体」等のように、法人格を持たないのが普通である団体や法人格を持つことが要求されていない団体があげられていることをみても、前記のように解すべきことが知られる。結局原告の前記主張も又理由がない(成立に争いのない甲第二六号証の原告の主張にそう記載内容は採用できない)。

なお入場税法第二八条は人格なき社団を両罰規定の対象から除外しているけれども、それは徴税確保のための規定にすぎず、人格なき社団がその規制の適用から免れているからと言つて、納税義務自体をも免れるものと解するわけには行かない(人格なき社団に納税義務を課しながら、右法条の適用をしないことには必ずしも合理的根拠はないかも知れないが、逆に右法条の適用がないことが納税義務がないことの結果であるとみなければならないものではない)。また国税通則法の制定経過についても成立に争いのない乙第一一二号証の一、二、第一一三ないし一一六号証によれば、人格なき社団が入場税その他間接税の納税義務があることが前提になつて、ただ罰則の適用について問題が生じたので明文で納税義務を規定しようとしたものであることが認められるから右結論を左右しえない。

三、次に原告は、原告の例会は入場税法第二条にいう催物ではなく原告はその主催者には当らないと主張する。

そこでその当否について考えてみるに、本件課税処分の対象となつた原告の各例会の内容および開催場所については前記のとおり当事者間に争いなく、右争いない事実によれば各条例会の開催場所が入場税法第一条第一号の場所に該当し、かつその内容が同法第二条にいう音楽に該当することは明らかである。

さらに成立に争いのない甲第一号証の一、二、第二号証の一、二、第三ないし一〇号証、第一二ないし一九号証の各一、二、第二一号証の一、二、第二二号証の一、二、第二四号証の一、二、第二五号証の一、二、乙第一号証、第二号証の一、二、第七号証の一、二、第八号証、第一一ないし一七号証の各一、二、第一八ないし二一号証、第二二号証の一、二、第九三号証の一、二、第九四ないし九六号証、第九七号証の一、二、第九八号証の一、二、第九九、一〇〇号証、第一〇一ないし一一一号証の各一、二、第一二四ないし一二六号証の各一、二、第一二七、一二八号証、第一二九号証の一、二、第一三〇号証に証人中島一郎の証言によつて成立が認められる甲第二〇号証の一、二、第二三号証、証人中島一郎、柴田しのぶの各証言、原告代表者福田博年尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると、原告は浜松市とその周辺の職場、地域、学校等における三名以上の音楽愛好者の集り(サークル)を単位として構成される団体であつて、その目的として会員自身の成長と社会の進歩に役立つ音楽文化をつくり出し、文化の発展向上に寄与すること、サークルの自主的な活動および会員相互の交流を発展させ良い音楽を普及させ、働くものの人間性を高めると共にその連帯を強化することを掲げ、右目的の遂行のため、会員の希望にもとづいて毎月定例音楽会(すなわち本件でいう例会)を開催し、その他合評会、音楽講座、座談会、レコードコンサート等を催し、機関誌、ニユースを発行する等の活動を行うものであること、原告の会員となるためには原則として構成単位であるいずれかのサークルに所属し、規約で定められた入会金と会費を納入することが必要であるが、昭和三九年六月の規約改正以前には、サークルに属しない個人会員として入会することも認められており、誰でも入会金と会費(但し個人入会の場合は三ケ月分前納する)さえ支払えば、自由に入会できたこと、会員は毎月その月の例会開催費用を会員が均等に負担することを建前として定められた会費(昭和三七年一〇月から四一年六月までは基本会費を二〇〇円とし必要に応じて追加会費を徴することとされ、例会ごとに変動する)を納入するものとされ、一回でもその納入を怠れば自動的に会員の資格を失うこと、会費を納入した会員には引換にその月の例会券が渡され、例会会場に入場するためには原則として右例会券を持参することが必要とされること、会員は例会券を呈示し座席券と引換え、そこに指定された席に着席する(したがつて例会券は前売券と同じ性格のものである)こと、同じ月に内容の異る二種以上の例会が催されるときには、二つ以上の例会に入場するためには各例会ごとに会費を納めなければならないこと、この場合、一つの例会に人気が集中すると、会員であつても希望者の一部しか入場できないことがあること、原告の組織運営方針としては会員の数をふやすと共に新たに会員となつた者に対しては引続き会員としてとどまつてくれることを期待し、ある特定の例会だけに参加する目的で一回限りの会員になることは認めないという建前をとつているが、現実には一時的な会員がかなりの数にのぼり、これらの会員は例会の出し物に興味をひかれないときは、その例会の会費を納入しないことによつて自動的に退会してしまうので、会員の数は例会の人気の程度に応じて浮動するのが実情であること、したがつて原告の例会は会員だけが参加できるものであると言つても、実態は一般に開放されているのと異らない面があること、一方原告(前記のとおり人格なき社団である)は意思決定機関たる総会、執行機関たる委員会、事務局等の機関を有し、委員長を代表者とし、また原告によつて雇用されている専従の事務局長をおき、例会の開催に必要な出演契約、会場借上契約等は委員会の決定にもとづき、委員長又は事務局長等によつて原告の名と責任においてなされることが認められ、したがつて右委員長らの行為の法的効果は原告に帰属し、会員個人の権利義務には何ら影響をおよぼさないものであること、すなわち会員の法律的な権利義務は原告の決定した一定金額の会費を原告に納入し、これと引換に例会参加の権利を与えられることに尽き、原告はこのようにして領収した会費をもつて例会運営に直接間接必要な諸経費をまかなうのであつて、たまたま会費を納入する者が少なくて欠損を生じたとしても、それは専ら原告の負担に帰し、逆にいくらかの剰余金が生じれば、それだけ原告の財政がうるおう結果になるもので、要するに例会運営に関する一切の収支は原告の計算に帰するものであること、が知られる。右の認定事実および前記争いない事実によつてみれば、本件課税処分の対象となつた原告の各例会は個々の会員とは別個独立の社会的存在である原告自体が会員である多数人に見せ、又は聴かせるために主催した催物であると解せざるを得ない。

原告は前記原告の主張(二)2において述べるように、原告の組織や活動の実態からみて、例会には主催者と入場者との対立関係がない、と主張する。そして前掲各証拠によれば、サークルの活動、例会企画の決定、例会運営の方法、例会の前後における学習や批評などについて、原告が会員の自発的、自主的参加を得ることをその本来の在り方とし、そのような運営に努めていること、上記証人等のような活動家がそういう方針にそつた活発な運動をしていること、が認められる(もつとも上掲書証によれば一般の会員については必ずしも右在り方のような活動がされていないことがうかがえる)。しかしさきに認定した事実からすれば、原告のいうように、原告は会員個人の集団ではあるが、個々の会員と対立し独立した存在ではない、とするわけにはいかない。会員が例会運営に参加したり、例会に出演したりしても、それだからといつて例会は会員が全体でこれを主催し、会員全体がこれを鑑賞している、ということにはならない。原告は会員からの独立性を弱いものとすることを、そのあるべき姿としているであろうが、人格なき社団として前認定のとおり個々の会員とは別個独立の社会的存在であることは否定しえない。結局原告の主張は採用できない。

四、原告は、会費は入場の対価ではないと主張する。しかし前記認定事実によつて明らかなとおり、会費の納入は会員が例会会場に入場する資格を得る要件であつて、その金額は例会一回の開催費用をまかなうに足りることを主たる基準として定められ、上演内容の如何によつて変動し得るものであり、かつ従来会員でなかつたものも特定の例会に入場を希望するときは、入会金とその例会の会費を納入しさえすれば、会員として入場できることを考えると、会費は会員資格の取得および保持の要件たる一面を有すると同時に、実質的に入場の対価たる性質をも持ち、入場税法上の入場料金に当るものと言わなければならない。原告は利益を追求しないというが、だからといつて会費が入場料金にあたらないというわけにはならない。原告は、会費は原告の唯一の財源であつて、例会経費以外の支出にもあてられているという。しかし前掲各証拠によれば原告が例会以外に機関誌の発行、労音学校、ハイキング、キヤンプ、スキー、パーテイ、合評会、研究会などの行事の開催をしていることはうかがわれるけれども、機関誌の発行は例会内容の紹介を主な目的としているもので会費の一部がその発行費用にあてられるとしても、むしろ例会開催に附随する活動とみられるし、その他の経費を必要とする行事については、その都度これに参加する会員から実費程度の金額を徴していることがうかがわれる。もとより会員の大部分がもれなくこれらの行事に参加しているものとはみられない。仮りに例会の会費がある程度それら行事の費用にあてられることがあつたとしても、そのことによつてただちに会費の全部について入場の対価たる性質を認めることができなくなるものでもない。なお原告が人件費、事務所維持費等の経常費用の支出を要し、それが会費によつてまかなわれていることは成立に争いのない甲第四号証前掲乙第一一号証の二第一〇一号証の二によつて認められるが、それは本来入場の対価の一部に含まれるべきものと言える。さいごに前掲各証拠によればある例会の会費を納入した会員のすべてが、必ずしもその例会を鑑賞するとは限らない(会費を払つても例会に参加しない会員もある)ことが認められるが、後記認定の事実によつて明らかなとおり、被告は原告の例会に実際に参加した会員が支払つた会費を入場料として課税しているのであるから、それ以外の会員が会費を支払つた事実があつても、それは課税の対象となつた会費について入場の対価たる性質を認めることの妨げにはならない。

五、原告は、入場税を原告に課することは、憲法第二五条に違反するという。しかし原告が行つているような営利を目的としない文化普及運動が社会的に独自の価値を有し、その健全な発展が期待されるものであることは一般論として認められるとしても、現行入場税法の課税要件に該当する限り、原告に対してのみ納税義務を免れさせることが許されないことは言うまでもなく、また原告に入場税を課することによつて、「良い音楽を安い費用で広く公衆に提供する」という原告の目的が深刻に阻害され、その結果憲法が要求する生活権の保障をおびやかすほどに、原告の会員から文化享受の機会がうばい去られるものとも考えられない。原告の主張は結局原告の会員の大部分を占めると考えられる一般勤労者階級のささやかな文化的消費に税を課することの政策としての当否を論じるにとどまり、それはそれなりに意義を持つているとしても、本件各課税処分の根拠となつている現行入場税法の税率の程度をもつてしては、そういう消費に対して禁止的な抑圧を加えるほどのものとは言えないし、その他同法およびこれにもとづく右各処分が直接憲法に抵触するほどに不合理であるとみられる点はないから、原告のいう違憲の主張は理由がない。なお甲第二七号証や原告代表者尋問の結果にみられる原告の活動の文化的意義を否定するものでないことはいうまでもない。

六、以上みたとおり、本件各課税処分が違法であるという原告の主張はすべて理由がなく、別表記載の原告の例会は入場税法第二条第一項の「催物」に、原告は同条第二項の「主催者」に、それぞれ該当するので、原告はその領収した入場料金について、法定の税率による入場税を納入すべき義務がある。

ところで同表の番号1ないし17の各例会については被告は一人一回の入場料金を、当該例会の開催に要した経費の総額を当該例会の会場に通常入場させることができる人員の数で除して得た金額として算出している。右のような算出法は、一人一回の入場料金の額を直接知り得ないときにこれを推定する方法として合理的であり、入場税法第七条の趣旨に照らしても、納税義務者に不利益をおよぼすおそれはないから、これを適法として容認すべきところ、証人小野田米司の証言によつて成立が認められる乙第二四号証の一ないし四、第二五号証の一ないし三、第二六号証の一ないし四、第二七ないし三〇号証の各一、二、証人藤田重雄の証言によつて成立が認められる乙第三一号証の一の一、二、同号証の二、三、第三二号証の一、二、第三三号証の一、二、第三四号証の一ないし三、第三五号証の一ないし三、第三六号証の一、二、第三七号証の一、第三八号証の一ないし四、第三九号証の一ないし四、第四〇号証の一、二、第四一号証の一ないし五、第四二号証の一ないし三、第四三号証の一ないし四、第四四号証の一ないし三、第四五号証の一ないし四、第四六号証の一ないし三によれば、前記各例会の開催に際しては、少なくとも別表「経費の内訳」欄に記載された各金額を下らない額の経費がそれぞれ支出されたものと認めることができる。したがつて各例会ごとの右経費の合計金額(別表「入場料金の総額」欄に記載されている)を、その例会において原告が領収した入場料金の総額(税込み)として、これに基いて前記の計算をして入場税法所定の税率によつて同表記載の各入場税額を決定したものであることが計算上明らかな被告の各処分はいずれも正当である。

次に番号18ないし26の各例会については原告が徴した会費の金額が別表の「一人一回の入場料金」欄に記載されているとおりであることは当事者間に争いなく、証人藤田重雄の証言により成立が認められる乙第四七ないし九二号証によれば、右各例会について別表の「入場人員」欄に記載されている人数は、いずれも当該例会の会場入口において税務職員が確認した入場人員数から五パーセント以内の無料入場者があるものとして、五パーセントを控除して算出した人数であることが認められる。そうすると各例会ごとに右の「入場料金」欄の金額と「入場人員」欄の人数との積を原告が領収した入場料金の総額とし、これに基いて当該例会につき別表記載の各入場税額を決定したものであることが計算上明らかな被告の各処分はいずれも正当である。

そして原告が以上の各例会の入場税額等について申告をしなかつたことは、弁論の全趣旨から明らかである。そうすると原告は右各例会につき、別表記載のとおりの無申告加算税を納付すべき義務がある。

以上みたところによれば、被告が原告に対してなした本件各課税処分はすべて正当であり、その取消を求める原告の請求はいずれも理由がない。

よつてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水上東作 裁判官 中島尚志 裁判官山田真也は転補のため署名捺印できない。裁判長裁判官 水上東作)

目録

第一 昭和三八年四月二二日付入場税決定処分

月別 税額

昭和三七年六月分 二五、四二〇円

同年七月分 三二、三八〇円

同年九月分 三四、六一〇円

同年一〇月分 一九、三二〇円

同年一一月分 一六、七五〇円

昭和三八年一月分 一六、六三〇円

第二 昭和三八年一二月一八日付入場税および同無申告加算税賦課決定処分

月別 入場税額 加算税額

昭和三八年二月分 一六、六八〇円 一、六〇〇円

同年三月分 二三、四二〇円 二、三〇〇円

同年六月分 六、三七〇円 六〇〇円

第三 昭和三九年四月二〇日付入場税および同無申告加算税賦課決定処分(浜松間消第三二〇号による)

月別 入場税額 加算税額

昭和三七年八月分 四〇、〇九〇円 四、〇〇〇円

昭和三八年四月分 三一、七九〇円 三、一〇〇円

同年一〇月分 三二、二六〇円 三、二〇〇円

同年一一月分 二六、九八〇円 二、六〇〇円

同年一二月分 四三、九六〇円 四、三〇〇円

第四 前同日付入場税更正およびこれに対する無申告加算税賦課決定処分(浜松間消第三二一号による)

月別 入場税額 加算税額

昭和三七年一二月分 三四、三七〇円 一、六〇〇円

昭和三八年七月分 六七、四九〇円 六、七〇〇円

同年八月分 四〇、〇九〇円 三、九〇〇円

第五 昭和三九年五月二一日付入場税および同無申告加算税賦課決定処分

月別 入場税額 加算税額

昭和三九年一月分 六三、五八〇円 六、三〇〇円

同年二月分 八三、〇三〇円 八、三〇〇円

同年三月分 一〇一、六〇〇円 一〇、一〇〇円

第六 (1)昭和三九年六月二〇日付、(2)同年七月二二日付、(3)同年八月二八日付、(4)同年九月二五日付(5)同年一〇月二七日付、(6)同年一一月二六日付各入場税および同無申告加算税賦課決定処分

月別 入場税額 加算税額

(1) 昭和三九年四月分 一六六、六〇〇円 一六、六〇〇円

(2) 同年五月分 一七八、六三〇円 一七、八〇〇円

(3) 同年六月分 一七四、〇五〇円 一七、四〇〇円

(4) 同年七月分 一九六、三八〇円 一九、六〇〇円

(5) 同年八月分 一一六、二一〇円 一一、六〇〇円

(6) 同年九月分 一九九、〇〇〇円 一九、九〇〇円

(別表 )

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